売り手A医師(70代) | 買い手B医師(40代) | |
事業形態 | 医療法人(旧法)・内科・無床診療所 | 内科(勤務医) |
M&Aの理由 | 後継者不在 経営を退き、往診専門の診療所に切り替えたい |
地元での開業希望 コストを安く開業したい |
譲渡価格 | 3000万円 | |
スキーム | ①M&Aの1年前より、代診の形で徐々に診察をバトンタッチ ↓ ③退職金が支払われる ↓個人事業として |
A医師と相談しながら、徐々に引き継ぎ ↓ ②理事長交代 ↓ A医師の退職金を銀行より借入れ ↓ 従業員の雇用・患者情報もそのまま継続 |
事例Ⅰ解説
内科診療を続けてきた70代の開業医Aが、後継者不在のため、医療法人(旧法)のM&Aを考えました。対象の医療法人は、もともと重症患者の救急診療も行なう比較的規模の大きな有床病院でしたが、院長の高齢その他の理由から年々診療範囲を縮小しており、M&A時点では無床診療所になっていました。
ただ、A医師はクリニックの院長を退いた後も完全なリタイアではなく、細々とでもいいから体が続く限り医療は続けてきたいという希望を持っていました。
具体的には、これまで往診で関わってきた患者を引き続き診ていくために、在宅医療専門のごく小規模な診療所を開業し、自分のペースで医業を行なっていきたいとのことでした。
ちょうどA医師がM&Aを考え始めたとき、同じ県内で勤務医をしている40代のB医師が開業を希望していました。そこでうまくマッチングができ、クリニック譲渡の条件やタイミングを計る準備段階に入りました。
A医師が計画的にM&Aに対しての準備を進めていたため、クリニックの引継ぎに十分な時間をかけることができました。譲渡の1年ほど前からB医師が医療法人の理事に加わり、週1日の診療を始める形でクリニックに馴染んでいきました。そして徐々にB医師の診療日を増やしていく一方で、A医師の診療日を減らし、自然に引き継いでいったのです。こうすることで院長交代による患者や従業員の抵抗感を極力少なくすることに成功しました。
実際の譲渡は、会計実務のことも考えて、決算のタイミングで行いました。理事長をB医師に交代し、承継完了です。譲渡に当たっては、A医師に退職金を支払っています。これによって持分評価がほぼゼロに下がり、事実上の課税を生じさせることなくB医師への譲渡ができました。譲渡価格は3000万円ですが、実質クリニックの建物の代金とのれん代1000万円程度での承継です。
【ポイント】
- B医師は新規開業したらおそらく1億円以上資金が必要だったところ、承継をすることで初期投資を大幅に抑えることができた。
- B医師はA医師の退職金を用意するため借入れが必要だったが、医療法人として融資を受けることができたので、保証人はB医師自身でよく、個人で融資を受ける場合のように妻や家族を連帯保証人にしなくて済んだ。
- 承継前の患者が継続して通院してくることで、承継直後から収益を落とすことなく維持できる。